コラム

ベンチャー経営者奮闘伝

第05回 「エフアンドエム」 森中一郎社長

今回登場するのは銀行支店長から転身。何とキムチの宅配という前職からは想像だにしないビジネスを始め、現在は代理店展開で全国に220店もの代理店を設置、昨今のキムチブームの中で大活躍するコーシン物産の高柄烈(こう・へいれつ)社長だ。資金はわずかに100万円、4畳半のボロアパートから徒手空拳で身を起こした高社長のビジネスにかける思いを紹介する。

昭和36年生まれの39歳。ベンチャー経営者が日常茶飯事のようにテレビ・新聞等のメディアで紹介されるようになってきた現在ではそれほど若い、という感じは持たれないかもしれないが、経験が重要視されるコンサルティングの分野で実績を残しつつ、会社を成長させていくことは難事だ。それを成し遂げてしまったエフアンドエムの森中一郎社長。立命館大学を卒業後、6年間コンサルティング企業に勤務し培ったノウハウを活かし、1990年に独立、経営者となった。「大学を卒業後、コンサルティング会社に就職したのは理由があります。実は起業家になりたかったかのです。そのためにはコンサルティング企業に就職することで中小企業経営の疑似体験ができると考えたのです」森中社長の父親は大阪の呉服店で働いており、子供の頃は父親に付いて行っては商店街が遊び場だったという。そこで個人商店の親父さん達に囲まれて過ごす中で、子供心に『商売って面白そうだな』と思ったことが『経営者になりたい』という夢の原点になっているようだ。学生時代には20代の内に会社を作ろう、とかなり具体化された夢へと進化していたがあくまで原点は幼少期にある。

就職したコンサルティング企業では銀行への営業が主な担当だった。そこで銀行の渉外担当者と親しく付き合うようになってくる。付き合う中で感じたことは「銀行は大変だな」ということだった。当時、銀行は定期預金の金利も一緒なら、扱う金融商品も同じでとても独自色を出し切っているとは言い難く、その状況下で新規顧客を開拓することは困難であった。そんな中、森中社長はアメリカの銀行に注目した。その銀行は商品力ではなく、顧客との関係を重要視していた。例えば会社の設立記念日や経営者の奥さんの誕生日にはプレゼントを持っていくなどのメモリアルデーにはプレゼント作戦を展開していたのだ。このことがやがて、独立する森中社長に大きなヒントを与えた。フラワー事業を開始したのだ。そのシステムはこうだ。金融機関の営業担当者を中心としたお客さんからメモリアルデーのデータを預かる。それをコンピュータに入力、毎月「来月、あなたのお客様はこういったメモリアルデーを迎えます。どの方に、花を贈りますか?」と聞いていくのだ。こうして得た注文に対して海外から直輸入した蘭をラッピング工場で加工して直送する、というものだ。10年前はバブル経済の真っ只中。時期的なものも幸いして、このビジネスは繁盛した。「このシステムを考えついたのはアメリカの銀行の顧客サービスを知ったことがきっかけでしたが、なぜ花か、というのにも私なりに理由がありました。日本人はモノを贈られた場合、どうしてもお金に換算してしまうのですね。しかし、花は比較的お金に換算されにくい、というのがその理由でした」

92年には生命保険の営業職員を対象に記帳代行サービスをスタートさせた。これは月に1回同社のスタッフがクライアントを訪問し、専用封筒に入れてもらった領収書や給与明細書を持ち帰って仕分け・整理し、収支計算書を作成する。こうして出来上がった計算書を見て最終確認をしてもらうだけになっているというものだ。また、最終的な収支計算書を確認してもらった後、客に依頼された税理士が申告書を作成、所轄の税務署に提出するため、現在ではこの記帳代行に加え、財務指導や顧客セミナーサービスを含めた財務コンサルティングの顧客数は4万人を超えている。 青色申告の時期にも通常通り業務に専念でき、還付金が戻ってくるのを待つだけ、という青色申告にも対応している点もセールスポイントになった。このビジネスがヒットしたのは月額料金を白色申告で3000円、青色申告で4000円と低く抑えたことにある、と森中社長は分析する。スタート当初から損益分岐点を顧客1万人に設定し、赤字覚悟で顧客数の拡大に目標を絞っていったのだ。折りしも税務処理の基準が変わり、生命保険の営業職員にとって帳簿作成の重要性が高まった。 朝礼の時間にサービスのプレゼンテーションの時間を設けてもらったところ、月額3000円という値頃感も手伝い申込者は殺到した。客の側からすれば年間4万8000円支払っても、一切手間をかけずに45万円の控除が受けられるとあって一気にシェアを拡大していったのだ。

96年からは総務コンサルティングも開始している。「バブル崩壊後はその影響で生命保険の営業職員は年々減ってきていました。そこで残った職員に売上アップのノウハウを教える塾を始めて関係強化を図っていきました。するとその中でも中小企業を対象とした助成金などの無料診断サービスに大きな注目が集まっていたのです。調べてみると実際に8割の中小企業が何らかの助成金の取り漏れをしており、保険会社は営業先にそれを指摘することで相手との関係強化を図り、そこで保険販売のきっかけにしていこうというものでした。 しかし、これは中小企業の総務の仕事がノウハウとして確立されていないことが大きな理由だと考えました」こうして96年から「総務部門で利益を挙げよう」を合言葉とする総務コンサルティングがスタートしている。ユニークなのは生産性が薄いと思われがちな総務に売上目標を設定し、コスト削減などに取り組んでいかせるのだ。しかも、契約した企業に対しては3ヶ月のクーリングオフ期間を設けているために、半信半疑の企業も気軽に試すことができるというわけだ。ここから派生したビジネスもある。再就職支援事業がそれだ。リストラされる社員を2ヶ月間預かり、徹底的に総務のノウハウを叩き込む。指導料は再就職支援としてリストラする企業が負担する。総務のプロがいない中小企業からするとナンバー2になれる総務のプロは喉から手が出るほど欲しい人材だ、というわけで同社の支援策はほぼ100%の就職率を誇っている。 全国の中小企業を黒字化したい、こんな壮大な目標を持ってこれまでの営業に偏りがちだった日本式経営に「システマチック」に挑戦していく森中社長は、中小企業の黒字化で日本の財政赤字の解消までも視野に入れている。

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